イリーガルの誘惑

トレーサーは合法と違法の境界線を彷徨うものだ。少なくとも俺はそう確信している。魅力的な空間に限って立入禁止だったり、いとも簡単に壊れる、あるいは汚れる仕様だったりする。それは今まで問題なく使える場所ばかりを扱ってきたがゆえに、そうじゃない場所に慣れていないだけなのだという意味では当然なのだが、どうであれ、魅力的に違法になるという事実に変わりはない。

もちろん(たとえその力があったとしても)手を出してはいけないし、出そうなどと書くこともできない。しかしながら手を出したい、出せたらどんなに楽しいか、面白いか、気持ちいいか、成長できるか……と心が踊らずにはいられない。なまじ力があるだけに。

知らぬが仏。

物に口なし。

ここで「他の合法的なスポットで遊べばいい」「たとえばパルクールで食べるようにするとそういうチャンスが転がってくる」といった反論をしてきたのだが、それじゃダメだ。人工的に用意されたスポットに価値など大して無いし、何よりそれは俺が求めしパルクールではない。俺は生活の手段として存在する、ありのままのそれらをそのまま扱いたいのだ。そのまま自らをぶち込みたいのだ。力を試したい。適応させたい。そんなことに喜びを、やり甲斐を、価値を、意義を感じる。それが環境派、適応マンの俺だ。言い換えると、日頃日常生活をおくっている間に目にし続けているそいつらこそを相手にしたいのだ。

俺はどうすればいい?俺はまだ確たる答えを知らない。