パルクールで食べるとしたらどうだろうか

俺はお金のかからないパルクールを目指さざるを得ない くらいに要領が悪く(生活に対する)やる気(というか忍耐)も薄いのだが、ではパルクールで食べるとしたらどうだろうか、とふと思ったので書くべきだ。

まずトレーサーという名のアクターは願い下げである。何かに迎合できるくらいなら俺はこんな不器用な生き方をしていない。そもそもパルクールを始めることもなかっただろう。また、演技や人付き合いを楽しむ感性もない。「忙しいけど月100万円もらえるよ」だとしても無理だ。1000万なら……経済的に生活の利便が著しく整うから考えるかもしれない。

指導はどうか。スケジュールに基づいてシステマチックに、かつフレンドリーとかアットホームとかそういうのは無くても構わないのなら、アリかもしれない。こんな日記を書く程度には言語化という行為は嫌いではない。感覚マンだが基礎的な内容なら教えられるし、参加者各々を観察して悪い癖や非効率的なやり方を指摘・矯正させる程度ならできる(むしろこっちが需要ある気がする)。ただしそれは昔の話であって、一日両手で数えられるほどしか発声しない日もある今の俺には厳しい。が、効率的な収入源になるのであればその程度の改善は厭わない。あとは、子どもと女性の相手でないことも必要だ。まず子どもは理屈が通じないのでダメだ。全体的にセンスを持っていて、自発的にやらせれば高い満足度を与えられるという意味では楽だが、メシを食べるとなると親の存在は避けられない。教師でもあるまいし親の相手もするのは骨が折れる。想像すらできないので、その要領は俺には無かろう。それから女性だが、忌避する理由は二つある。一つは、俺が男性であり、女性の身体事情を知らないがゆえに適切な配慮ができないことだ。それでも今は少しは理解しているし、本気で勉強すればすぐに要領は得られそうではある。一つは、俺が性欲モンスターだということだ。俺の性欲は歪んでいる。学生時代も人付き合いをせずにずっとパルクールをしてきて、地形や障害物にフェチを見出すほどの逸脱も犯している。風俗嬢を障害物とみなして跳んでしまったこともあった。会社の後輩でも跳ぼうと作戦を練ったこともあった。更に言えば俺はいわゆるロリータ・コンプレックスの持ち主でもある。俺は女性と親しく接していい生き物ではない。自制する自信はあるが、憂いが無いとは言えない程度の感触ではある。よって得策ではないと判断している。しかしこの点も配慮と同様、勉強すれば要領を得るだろう。

選手はどうか。たぶん無理だろう。まず芸術を競うタイプのものは主観という定性的なパラメータに依存するゲーであり俺の要領で扱えない世界である。俺は流行や平均や人気といった機微を理解することを非常に苦手とする。たぶん小さい頃から自律的自立的に動きすぎたせいだろう。それから移動効率を競うタイプだが、それなら勤まることはできる。が、そもそも俺は 承認の化物である から、競争という場に身を置くこと自体が危険なのである。勝つために、どうしても勝てない選手に妨害を働くといった発想と行動をする可能性もありえる。俺は醜いのだ。だからこそ俺は俺を閉じ込められるパルクールという名の檻に俺を閉じ込めておかなくてはならない。

研究者はどうか。イメージしているのは大学教授だが、要するにパルクールに関する研究を行う研究者としてメシを食べるのだ。研究は非常に裁量の高い仕事だし、一人でもできるから、俺にも向いているかもしれない。ただそう簡単にはいくまい。研究界隈も、少なくとも大学は会社とは少し違った人付き合いが少なからず存在するし、そもそもパルクールに関する研究は需要がない。需要がなければ職業もない。海外ならもしかすると教授が存在するレベルかもしれないが、少なくとも日本は違う。たとえば卒論すら手で数えられる程度でしかない。

Webサービスはどうか。パルクールに関するサービスをつくるのだ。しかしこれはパルクールに間接的に関われるだけである。パルクールでメシを食べるとは、多かれ少なかれ自らの身体動作が付随しなければならない。そうでなければパルクール無関係の仕事でメシを食べるのと同列でしかない。……あ、待て。もし付随が必須なら指導はどうなる?指導については……おそらく多様な参加者を観察し、また彼らと対話することで得られるヒントが多いという意味で、付随しなくてもいい、それ以上のメリットがある、という打算が働いているのだろう(上記を書いた俺は既に居ないがたぶんそうだと思われる)。なるほど、身体動作の付随は必須ファクターではないということか。ならサービス開発もチャンスがあるかもしれない。片隅に置いておく。

テスターはどうか。地形や建造物のテストを行うのである。耐久テストや侵入テストがメインか。あるいはトレーサー用スポットや設備のテストでもよい。俺はオンサイトを行えるほどに眼が整っている。テスターの資質という意味では何歩もリードしていると言ってよい。問題があるとすれば、テストという単調作業に俺の精神が耐えられるかということだ。俺は作業を嫌う。例外は、その作業が苦痛を伴い、快楽を伴い、身体に成長に繋がるケースだけだ。テストではトレーニングにはなるまい。

運び屋はどうか。近距離で、かつ相応のルートが使えるのなら、俺はどんな乗り物よりも早く目的地に到着できる(ことがある)。荷物を持ったまま動く Baggage Parkour も得意ではないが可能だし、必要なら鍛えればよい。……が、そんなニーズが、しかもメシを食べられるほどに存在するとは思えないし、作れる気もしないので、妄想でしかないか。

……思考が尽きた。リーガルなものに限定すればこれくらいだ。当然ながら簡単には行きそうにない。

しかし、簡単に行かない理由として日本のパルクール界隈が、市場が未発展だからという理由もある。仮に海外ほどメジャーになって、人口が、母数が増えたら、ビジネスチャンスとなり、メシの種になる可能性もあるというわけだ。そうなることを待ち、またそれに 備えて準備しておくことは賢い戦略 だろう。もちろん具体的にどう準備すればいいかを悟るほどの賢さは俺にはない。